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「――――なんです、張り合いの無い……」
剣を収めて深い溜息をつく帝。
だが、背後に感じた気配で鋭く振りかえる。
「誰です――――ああ、要でしたか」
「……」
帝に向けて手を伸ばしかけていた要は、その手をゆっくりと下ろす。
「すみません、驚かせてしまいましたか」
「……大丈夫……」
要は緩やかに首を振り、懐にいつも常備している飴を口に含む。
「要、お菓子を食べた後はちゃんと歯磨きをしなさいね?
虫歯になってしまいますよ」
「……うん、分かった……」
要は小さく頷くと、街を指さす。
「……街の人達、避難させた……」
「そうですか。ありがとうございます、要。
流石、氷の鉄壁の次期総帥ですね」
帝が軽く頭を撫でてやると、要はもう一つ飴を取り出し、帝に差し出す。
「なんです?」
「……あげる……」
「ありがとうございます」
褒められているのに、要はちっとも嬉しそうな表情をしない。
それは今に始まった事ではないが……。
――――引き取った時から、彼は表情が乏しかったですしね。
要は帝の義理の弟。
悪魔との戦闘で両親を亡くした、当時九歳だった彼を、帝が引き取ったのだ。
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