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それから母は私に兄の写真を見せてくれた。
まだ歩き始めたばかりの幼い兄の姿がうつっていた。
父と母がどのような理由で離婚してしまったのかは未だに聞いていないが、とにかく両親の離婚により私は母親に、兄は父親に引き取られ別々の人生を歩むことになったのである。
『お父さんやお兄さんに会いたい?』
母は私にこう聞いた。
『ううん、会わなくていい』
私は間髪を入れずにこう答えた。
今更会うのが恥ずかしいという純粋な気持ちと、会っても何も変わらないという冷めた気持ちが私の心の中にはあり、母親のことを考えると
『うん!会ってみたい』
とはとても言えなかったのだ。
その日以来、私は母と父親や兄の話をすることはなくなった。
心の奥底には消えないで残っていたのだがあえて口にしなかったのだ。
幼いながらも今のことだけ考えて母と生きて行こうと思っていたのだろう。
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