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何度も切開を繰り返すのは傷を残すというよりも痛みに耐えることに意味があるのではないか。ハジはモンに水をせがみながら延々と無意味な物思いで痛みを凌ぐ。女の前で情けない醜態を晒したくない。若者達はそんな意地と見栄だけで意識を保っていた。女達はそんなやせ我慢を見て微笑しながらかいがいしく世話を焼く。
「アジク、生きてるか」
「兄弟、何とかな」
アジクは疲れた声で答え、また低く呻く。また傷が激しく疼きはじめ、燃えるような痛みが全身を駆け抜けていく。
「モン、鼻を掻いてくれ」
彼はモンを呼んで嘆願した。そんな些細なことさえ自分では出来ない。
「馬鹿、目に指を突っ込むな」
モンは間違いに騒ぐ彼に機嫌を損ね、鼻を鳴らした。容赦なく彼の背中を叩いて悶絶させる。二人の言い争いを横目で見て苛々するハジ。プリシーラは夜中に彼が何度も起こしたせいでうつらうつら。
「あなた、熱があるんじゃない」
モンはアジクを放り出してハジの額に手を置いた。気分が悪く、朝から目眩が酷いのだ。
「平気だ。大きな傷があると熱が出ることはよくある」
念のためモンがメイサを呼び、メイサはハジの様子を見て何ともないように言った。
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