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町に長居すると旅の目的を忘れる――。
そんなことを言いつつも、その後も少女は珍しいものばかりが並ぶ町に興味津々でなかなか出発しようとしなかった。
が、やはり30分ほど町を歩くとさすがに焦り、入った時と反対側にある出入り口に無理矢理足を向けた。
出入り口をあと数歩で抜ける、そんな時。
「あの…、お姉ちゃんはもしかして旅人ですか?」
背後から声がかかる。幼い声だった。馴れない敬語を、ぎこちなく1つひとつ丁寧に使っているような話し方だ。
――もしかして私のこと?
そう思った少女は振り返り、声の主を探そうとした。
すると、目の前で小柄な少年が顔を見上げ、こちらを見ていた。
あどけなさの残る表情で。
「…えぇ、そうだけど…。よくわかったね、どうしたの?私に何か用かな」
「あ、あの、僕も旅してて、もし良かったら、途中まででも一緒に、行けないかなって」
緊張しているのか、途切れ途切れに喋る少年。
そんな彼に対して少女はにこり、という効果音が聞こえてきそうな笑顔を向けると、
「うん、いいよ。私も仲間が欲しかったんだぁ。」
と返した。
「ほ、ほんと!?ありがとう、お姉ちゃん!」
少年は心底嬉しそうにそう返した。
こうして、2人の旅ははじまったのだった。
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