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シンがいなくなったら、あたし…
どうしていいかわからない。
不安は、いつもさりげなくしのび寄る。
そこにあることにも気付かないうちに、いつの間にか近付いてて。
気付いた時には、クヮッて口を開けた不安に、飲み込まれてしまうんだ。
学校で美少女を見た日の夜、あたしは台所で次の日のお弁当の準備をしていた。
あまり難しいものは作らないんだけど、前日に下ごしらえしておくと、ラクだから。
明日はえーと、ほうれん草とベーコンを炒めて、プチトマトと、卵焼きと、チキンの照り焼き…
「また愛妻弁当の準備してるの~?」
後ろからママの声が。
「不思議の国のアリス」で、チェシャ猫が笑うでしょ。消えていっても、笑いだけが宙に残るの。
あんな感じで、ニヤニヤの気配だけを、背後に感じるよ、ママ。
「あのさあ、ママ…」
洗った手を手拭タオルで拭きながら、あたしは振り返った。
「そういう冗談やめてくんない?
あたしとシンは夫婦どころか、ぜんっぜん付き合ってもいないんだから」
ぜんっぜん、を強調する。赤のラインマーカーで下に二重線引くみたいに。
「シンちゃんのママが、菜緒ちゃんがお嫁に来てくれないかな~ってこの間また言ってたわよ。
あの目はけっこう真剣だった」
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