はじまりはお葬式

4/11

15850人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「ちょっと前から」 シンがベランダに乗り出した。 ベランダにつかまって、そのまま前回りでもしそうな勢い。 ベランダが、壊れちゃうよ。もう築16年は経ってるんだから。 ああ、小さいな。 シンじゃなくて、ベランダが。 昔はよく2人でベランダでおままごとしたっけ…。 今はシン1人でも壊れちゃいそうにチャチく見えるよ。 シンはいつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろう。 「すげーデカい葬式だよな」 シンが呟いた。 「うん」 確かに、大きい。 お向かいの家の当主は、まだ50代だったという話だ。 土地やマンションやビルを沢山持ってる大地主。 いくつもの会社を経営してる地元の名士だった。 お向かいに住んでいても、ほんの数回しか見たことないけど。 なんせ広い広いお屋敷で、大きな門は固く閉じられたまま。 黒塗りの車が出入りする以外、人の気配が感じられない。 森のようなお屋敷なのだ。 あたしの家の道を挟んだ向こう側は、小さな森。 「いやいやえん」という小さな子向けの本の中に、遠足に行く話が出てくる。「山のぼり」という題名だ。 5つの山があって、1、2、3、5番目の山には、それぞれおいしい果物の木があるんだけど、4番目の山は黒くて、いつも夜のようなんだ。 その、4番目の山みたいな。 古い由緒ある日本家屋で、いつも暗くて、木が沢山取り囲んでいて…。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15850人が本棚に入れています
本棚に追加