15850人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「ちょっと前から」
シンがベランダに乗り出した。
ベランダにつかまって、そのまま前回りでもしそうな勢い。
ベランダが、壊れちゃうよ。もう築16年は経ってるんだから。
ああ、小さいな。
シンじゃなくて、ベランダが。
昔はよく2人でベランダでおままごとしたっけ…。
今はシン1人でも壊れちゃいそうにチャチく見えるよ。
シンはいつの間にこんなに大きくなっちゃったんだろう。
「すげーデカい葬式だよな」
シンが呟いた。
「うん」
確かに、大きい。
お向かいの家の当主は、まだ50代だったという話だ。
土地やマンションやビルを沢山持ってる大地主。
いくつもの会社を経営してる地元の名士だった。
お向かいに住んでいても、ほんの数回しか見たことないけど。
なんせ広い広いお屋敷で、大きな門は固く閉じられたまま。
黒塗りの車が出入りする以外、人の気配が感じられない。
森のようなお屋敷なのだ。
あたしの家の道を挟んだ向こう側は、小さな森。
「いやいやえん」という小さな子向けの本の中に、遠足に行く話が出てくる。「山のぼり」という題名だ。
5つの山があって、1、2、3、5番目の山には、それぞれおいしい果物の木があるんだけど、4番目の山は黒くて、いつも夜のようなんだ。
その、4番目の山みたいな。
古い由緒ある日本家屋で、いつも暗くて、木が沢山取り囲んでいて…。
最初のコメントを投稿しよう!