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負ける? この俺が。
そんな馬鹿なことがあってたまるか。今まで連戦連勝。負け知らず。俺は既に兄を倒した。父親も越えた。母親など眼中に無い。
そんな俺が負けると言うのか。
こんな細い腕の女に?
おかしい。ありえない。
俺は今までに数多くの強敵難敵、時に反則まがいの卑怯者すら、悉く叩きのめしてきた。
例えば早食い勝負だったり、喧嘩だったり、じゃんけんなんてものもあった。
その全てに勝ち続けた俺が、今正に負けようとしている。
くそ、このままではカウンターを入れられてしまうじゃないか。止まれ俺の右手。
だが、力を込めた右手を止めるには、些か彼女との距離が近すぎた。
そのまま流れるように、彼女の左肩に進んでいく。
そして到達した瞬間。彼女は振り返った。
負けた……。
たった一度見ただけで、彼女の微笑みに負けてしまった俺は、ついに話しかけようと左肩に手を掛けた。
きょとんとした顔に、人生二度目の負けを味わった。
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