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軽くパニックになっているオレが居る部屋の襖の向こうで、ガラリと戸を開ける音がする。どうやら誰かが入ってきたらしい。
「うぇ!? ちょ、不法侵にゅ…いやでもオレん家じゃねーし…でも勝手に、ええ?」
パニックを起こしている頭に、この家の家主だという発想は無い。
どうしようと意味も無くオロオロしていると、そのまま戸を開けた主の足音は真っ直ぐにこちらへ向かい、躊躇なく襖がスッと開かれた。
「うわあっ! な、なんだ!? って、あれ…猫…?」
開いた襖から飛び込んで来たのは猫。
膝に乗り上げてきた猫を恐る恐る撫でながら、襖が開かれたことで広くなった室内を見回すと、茶髪をポニーテールにしているお兄さんが背負っていた物を丁寧に下ろしているところだった。
「なぁミケさん、ちぃと坊主の様子を…あ」
お兄さんが振り返ったことでオレとバチッと目が合うと、お兄さんは目を細めてゆるりとオレに笑いかけてきた。
真っ赤な着物…今時珍しいな。
「おう、旭。ちゃんと目ェ覚めたかい。良かった良かった」
「ッ!? だだっ、誰だアンタ!」
なんでコイツ、オレの名前を知ってんだ!?
思わず猫を抱き締めて情けなくも盾にしているオレを見るなり、このお兄さんはぱちくりと目を瞬いてから豪快に笑い飛ばした。
近寄ってきたお兄さんの手によって、盾になってもらっていた猫を没収される。
「そう警戒しなさんな。取って喰やしねェさ。まずは、そうだなァ…俺は玄ってんだ。またたび玄さんとも呼ばれてる」
「はぁ…」
いまいち状況を理解していないオレを置いて、「ちなみにこっちはミケさんだ」と紹介した猫を戸口から外に出していた。
そこから見えた景色は、明らかにオレが知っている街と違う。
「…ええと、玄…さん? 一つ聞きたいんだけど、ここ…何処?」
「何処ってそりゃァ…江戸だろ? 可笑しなこと言うもんだな」
「はぁ、江戸…」
そうか、ここは江戸なのか…って嘘ォ!?
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