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「今までの会話で分かったことは、君が人間軍の手先ではないということだ」
少し話をずらす。違う方面から答えを求めるというルクシルの考えだ。
「その根拠は?」
それに青年も応じる。
「相手を騙してやろうって奴はそんな目できねぇよ」
青年の目は据わっていた。ちゃんと自分の立場を理解し、すべき行動、そしてその行動の先までを見据える目。
何よりもこの戦争を終わらせたいという強い意志が表れている。
「君はどうやってこの戦争を終わらせる?」
ルクシルはこの質問を青年に投げ掛けた。この質問の返答次第で答えを決めようと考えていた。
「…ディメンションを閉じます」
「何!?」
少しためらった後に青年が口にした事はルクシルの度肝を抜いた。
この発言には最も信じがたい返答が隠されているのだ。
ディメンションを閉鎖することは、人間と魔人の干渉を断ち切ること。
つまり、
戦争の勝敗はつかない
と言うことだ。
更には遠回しに「軍を退け」と言っているようなものだ。
それを覚悟しての発言。この青年の決意はルクシルが感じた以上のものだった。
「お願いします…」
青年が急に頭を下げる。ルクシルが先程の発言の意味を汲み取った時だった。
「…………」
これにルクシルは無言を返す。そしてため息をふっと吐くと空を仰ぐ。
「…ディメンションを閉じれるのか?」
「必ず…!!」
ルクシルの最後の質問に青年は力強く答える。その返答に満足したルクシルは後ろを振り返る。
そして大声で叫ぶ。
「ディメンションから撤退する!!各地に散らばった兵達に急いで伝えろ!!」
ルクシルが撤退を決意した。青年は感謝とも尊敬とも取れる複雑な感情を抱きながらお礼を述べた。
「ありがとうございます!」
「…これが今、できる最善の判断だ。後は…頼む…」
大将がこんなことを言ったならば非難されるであろう。しかし、ルクシルはそれを甘んじて受けようと決心していた。
「(このまま戦っても勝機なんて見えやしねぇ…。ならば未知である青年に背を任せた方が可能性はある。)」
何故かルクシルは、あの青年がしくじるはずない、と思い始めていた。
「頼んだぞ…」
後退する最中、青年の小さくなった姿を見、誰の耳にも入らない声で呟いた。
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