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「………」
後退していく魔人軍を無言で見る青年。その目には更なる決意が表れていた。
「(絶対に…閉じてみせる)」
汗が伝う手をぐっと握りしめ、人間軍の方に振り返る。
「何者だ、あいつは」
ヴァイスはこちらを見る青年をしっかりと捉えていた。
巨大岩石を意図も簡単に退け、さらに魔人軍の撤退までもさせた。
だが確実なのは敵であるということだ。
「貴様ァ!何者だ!?」
大声を張り上げ、青年に問いかける。
ヴァイスと青年との距離は500m程。だが、お互いに姿は確認していた。
そう、していたはずだった。
「な…!?」
ヴァイスは目を疑った。なぜなら先程まで米粒大に見えていた青年が、目の前に現れたからだ。
「あなたが人間軍大しょ―――」
「雷(いかずち)!」
一瞬で移動した青年が喋るのを遮るように人間軍の兵士の中から声が上がった。
次の瞬間には青年の頭上から雷が降り注いだ。
それをバックステップで瞬時にかわし、人間軍との距離をとる青年。
「今、貴様を敵と確認した。貴様が敵と分かっている以上、殺す」
ヴァイスの鋭い威嚇が飛ぶ。雷を放った兵士については何も触れないところを見ると、日頃から敵が近づけば対応するように鍛えているのかもしれない。
「話し合う気はないようですね」
「あぁ、貴様を殺して魔人を殲滅しなきゃならねぇかんな」
青年の問い掛けににやにやと微笑を浮かべながら答えるヴァイス。
それが青年の怒りのボルテージをマックスにしてしまった。
「大将ヴァイス!お前は2つ勘違いをしている!」
口調が荒々しくなる青年。それに明らかに不機嫌さを表に出してヴァイスは答える。
「勘違いだと?」
「そうだ、まず1つ!お前達には僕は殺せない!」
「……思い上がるなよ!」
ピリピリと空気が緊張を帯びていく。ヴァイスの纏う空気が変わった。
「更にだ!お前らなんかに魔人は滅ぼされない!」
ブチッ…
元々沸点の低いヴァイスは今の一言に堪忍袋の緒を切らした。
「あいつを殺せぇぇぇぇぇ!!!」
オォォォォォォォォォォ…
人間軍の兵士達が高らかに雄叫びをあげ、青年に向かっていく。
青年はふぅと息をつき、体の力を抜き、臨戦態勢に入る。
「…魔力装填…!!」
青年がそう呟いたとき、青年を黄色いオーラが包んだ。
それから数時間後。
人魔大戦は21年という時を経て、終戦した。
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