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「なんで戦うんだよ…」
青年は高い丘の上から戦場を見下ろしていた。延々と立ち上がる煙が灰色の空を作り出している。
その灰色と同じ色の髪を風に揺らす青年は黒い装束を身にまとい、拳を握りしめていた。
「母さん、父さん…」
戦争が始まり沢山の人が死んだ。青年の両親も例外ではない。
しかし何千人、何万人、何十万人、何百万人と人が死のうが戦争は終戦の兆しすら見せなかった。
戦争に死は付き物だ、とはよく言われてるかどうかは知らない。
が、その死を踏み台にして登った先には何があるのか、それは人の死よりも価値のあるものなのか。
青年にはそれが分からなかった。
「父さんや母さんは見えていたのかな…。死の先にあるものが…」
両親が死んでしまった今、それは解ることのない謎だ。
「……ダメだな、僕は」
青年は戦場に目を向ける。そこでは命のやりとりが行われている。
1つの命が消え、1つの命が生き残った。また1つの命が消え、1つの命が生き残った。
戦うことしか出来ない場所。
生きたい人が死んでいく。殺されたくない人が殺されていく。
相手に恐れを抱けば死。1つの判断ミス、油断が死をぐっと引き寄せる。
だが結局は無意味な死が繰り返されている場所と言うことだ。
「……今日でそれも終わりだよ」
青年は深呼吸をする。
今から数分後には自分もあの戦場の中に…。
そう考えると自然と手が震えてきた。武者震いなのか、それとも単なる恐怖なのか。
そんなことは青年にはどうでもよかった。
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