四月二日

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 ……かっこいいと言われたのは初めてだった。だから初めは理解できなかった。意味がわかるまで三秒かかって、でも意味がわかっても次は夢だと思った。  僕はおもいっきり頬をつねってみた。  ……痛かった。でも全然嫌な痛みじゃなくて。  今まで何に対してもやる気がなくて、中途半端で、自分でも改善したいと思っても結局変えられなくて、そんな自分が嫌いだった。  でも一方で、そんな自分を肯定してる自分がいた。一生懸命はカッコ悪いことだと思い込んで、わざと冷めたフリをして、でもそれは逃げていただけだった。一生懸命やってバカにされるのが怖かった。怖くて、怖くて、他人とできるだけ関わらないようにしていた。  認められたい。絵美の一言は本当は心のどこかでいつも望んでいたことを照らしてくれた。  だから――、 「ありがとう、絵美。僕美術部に入るよ」 「本当に!?」  絵美は心から嬉しそうで、優しくて、愛しくて――。  そんな絵美が好きで、僕は思わず抱き締めていた。 「え……」  細くて、柔らかくて、暖かい。ずっと昔から知ってるこの感覚。  でも今は近付けた気がする。昔より、もっと。  君と僕との距離――ゼロセンチ。 「中に入ろっか」  今までの僕とは違う、新しい一歩。  もう怖くても逃げない。絵美が教えてくれたから。認められることのうれしさを。 これから僕は新しい自分で、未知の体験、知らない世界、本当の自分を感じるんだ。  それが僕の冒険。  今、新しい世界への扉を開いた。
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