四月二日

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 春の天気は変わりやすい。つい昨日は冬並みの寒さだったというのに、今は暖かな陽光が降り注ぎ、北から東に向きが変わった風は季節の変わり目を感じさせる。だけど僕は何にも変わらなくて、いや変えられなくて、父が買ってくれたまだ真新しい学ランに身を包まれて、校門の前に立っていた。  期待と不安が入り乱れ、また一歩を踏み出せない自分に苛立ちを覚える。そんな僕とは対照的に隣を通り過ぎていく僕と同い年であろう彼らは何かに惹かれるように校内の喧騒に吸い込まれて消えて行く。 「また、だ」  僕の口から出たそれは、あまりに弱々しくて、自分でも嫌気が差す。  もう何度目かわからないため息をついて、僕は一歩を踏み出した。  校門を過ぎると、至るところに部活勧誘の人がいる。新入生勧誘に必死になっている部活もあれば、退屈そうに待っているだけの部活もある。  別に僕はどこかの部活に入るつもりはない。中学の時も帰宅部で、やる気のない学生だった。  夢はない。  でもみんなより少し余った時間を勉強に使い、みんなより少しだけ頭の良い高校に入れた。このまま適当に大学に進み、適当な会社に適当に就職する。ただぼんやりとそんなことを考えていた。
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