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そんなやりとりをしてる間に目的地に着いたのか、絵美は歩みを止めた。
「ここよ」
「ここって……」
「そう、美術室よ」
美術室は廊下の突き当たりにあった。木でできたその扉は他のものより少し大きくて、重厚さを感じさせる。近くの壁には美術部の人が描いたであろう水彩画や油絵などが飾ってある。
「すげぇ……」
「うん、みんな上手いよね」
絵に関して初心者の僕でも上手いと思えた。
「見学先って美術部だったの?」
わかりきった疑問でも訊かずにはいられなかった。
「そうだよ」
「でもなんで?」
「なんでって?」
「いや、だからさ、絵美は中学の頃はバスケ部だったじゃん。それなのになんで美術部に見学なのかなって思って」
そう言うと絵美は「えっと……」となぜか口ごもってしまった。
しょうがないのでしばらく待ってみると、絵美は顔を赤らめうつむきかげんに小さく口を開いた。
「覚えて、ない……?」
「え、何を?」
そんな唐突に言われても何のことだかわからない。
「えっと、ほら、中一の春のこと……」
「…………」
……中一……の春……?
必死に記憶を探ってみる。
「……あっ! もしかしてあのこと?」
突然閃いたそれは、多分間違ってなければ、あの丘での出来事。
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