四月二日

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 僕は初めて味わう達成感に酔いしれていた時、後ろから腕が伸びてきて僕のスケッチブックは奪われた。  絵美だった。  僕はその時とてつもない罪悪感にさいなまれた。僕は絵美のことをほったらかしにして絵を描くのに夢中になっていたのだ。  でも絵美に怒った様子はなくて、むしろ泣いていた。  それを見た僕は何がなんだかわからなくて、ひたすら謝った。でも絵美は何も反応してくれなくて、その時ほど僕は困惑したことはなかった。  どれくらい経ったころだろうか、辺りはもう真っ暗で絵美の顔もわからなくなったときだった。絵美は突然ぶっきらぼうに一言だけ放った。 『許してあげるから、この絵ちょうだい』  その声はいつもの明るい調子だった。僕はなんで急に絵美がそんなことを言ったのか全然わからなかったけれど、それで許してくれるならと、喜んであげた。  帰り道、僕たちは並んで歩いた。手が触れるか触れないかの微妙な距離。中学で絵美と来た最初で最後の秘密基地だった。  夜桜が風で擦れ、その音は泣いているように聞こえたけど、その日の三日月はあまりに弱々しい光を放ち、無言で佇んでいただけだった。  昔話だ。  思い出した僕は急に絵美に対してすまない気持ちでいっぱいになった。 「あの時は、その、ごめん」 「違うの。謝らなくちゃいけないのは私のほう……」  最初こそ大きな声だったが、次第に小さくなり最後の方は呟きに近かった。それに合わせて絵美はうつむいてしまった。 「…………」  沈黙が流れた。  顔が見えないから、絵美が今どんな気持ちなのかわからなくて、僕はまた、ただただ待つことしかできなかった。
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