四月二日

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 あの日と同じだった。ただ違うのは僕はもう高校生になってしまったということだけ。結局僕は三年前と全く変わってなかったということだ。 「あのね……」  喉の奥から絞り出したようなその声は、聞き取るのもやっとなぐらい小さなものだった。 「あの時、私、嬉しかったの。栄二がなにかに夢中になっているところ初めて見たから。小学校の頃も勉強はするけど、他のことは一人だけ冷めてるというか、やる気がないように見えた。でもあの時は違った。一生懸命だった。夢中だった。真剣だった。だからそんな栄二を邪魔したくなくて後ろでずっと見てたの」  顔をあげた絵美は、いつもの明るい"えみ"で……。 「だから、本気になった一番最初の証が欲しくて。ううん、それだけじゃなくて、思い出が詰まったあの場所で栄二が描いたあの絵に一目見ただけで惹かれて、すごい好きになって。だから、その、栄二にはもっと絵を描いて欲しいの」  言葉が出なかった。何も言えなかった。でも嬉しくて、どうしようもなくて、僕はまた、ただただ立っているだけで。 「それに……」  絵美の顔は少し赤くて、どこかそわそわしい。 「……それに、栄二が絵描いてるときかっこよかったし」
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