第四章 襲い来る堕天使の翅

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  彼の読み通り、結界は電子機器……主に電力頼みの機械に影響を与えている。  魔力電源、要するに魔力エネルギーを源に、稼働する機械の機能を停止させる事までには至らない様だ。  外部から充電した電力が、何らかの要因で切れた時に入れ換わる、非常用の魔力電源を搭載していた事が幸を奏した。 広瀬はキーボードの上にある小型のディスプレイを睨み、その中に表示されている魔力探知型のレーダーに目を通す。  そのレーダーには複数の魔力信号(シグナル)が表示されていた。 地上にある魔人の物と推測される赤の信号に混じり、一つだけオレンジの信号が浮かび上がっている。  これは操縦士の反応だ。魔力探知型レーダーから、地上の状況を把握した広瀬は別のウインドウを開き、プログラムの設定を始める。 「オートパイロットシステム、セットアップ」  忙しなくキーボードを叩く音が響く格納庫へ足を踏み入れ、上條はオレンジ色の飛行兵装を見上げた。 あの機体はキルケ・トリナキエの愛機である。 航空戦力が必要な任務の際には、必ずこの機体を起用する。戦闘班にとって不可欠の機体なのだ。 「広瀬整備班長。それってキルケさんの機体ですよね?」  足場の上に乗り、ガーゴイルⅡの操縦席へ近付いて、上條はプログラムを編集する広瀬へ声を掛けた。 ディスプレイから目を離さぬまま、広瀬も上條の言葉に答える。 「ええ。あの娘もずっと落ち込んでいる筈が無い。彼女の性格を考えれば、魔導技研からの通信を耳にして、迷わず市ヶ谷の記念館に急行するに違いないでしょうな」  広瀬もキルケの性格を捉え、前以て飛行兵装の準備をしている。 何かに付けて落ち込みやすいが……その分、立ち直るスピードも速い。 危機に直面したとあれば、彼女も直ぐ様、起き上がって戦いに向かう事だろう。  彼女の性質を知った上で上條も、キルケを第二戦闘班へスカウトしたのだ。 ギリシャから日本へ、魔界と隣り合わせになったこの街……東京へ、魔導師としての研鑽を積みに来た彼女にとっても、有望な話であったに違いない。  ガーゴイルⅡの全体を見回して、上條は自身の選択に間違いは無い筈だと考え始めていた。 「……ん?」  ガーゴイルⅡの前面に取り付けられていた兵装。 それが上條の目に留まり、彼は顎の下に手を当てて、その兵装をじっと観察した。  
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