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半世紀前の平成二十年代後半。地球上に一つの黒点が出現した。
その不気味さは人間達の注目を集め、多くの者達がその正体を確かめる為に調査を始める。
虫食い穴の様にも見えるそれは一体何なのか。
その正体は最初の発見から二十二時間後に明かされる。
ただ一つだけ空に浮かんでいた黒点が爆発的な勢いで増殖を始め、たった半日で世界中を埋め尽くしてしまった。
幾万の黒点が天を支配し、人間達の混乱も最高潮に達した時、黒点は異形の者達を吐き出す。
それは神話や伝承等で語られる様な、人間の理解を遥かに超えた存在。
所謂と呼ばれる者達だった──。
…◆…◇…◇…
初秋の東京都港区麻布永坂町。半世紀前の《魔界事変》から再建された高級住宅街の一角に、その家はある。
朝日に照らされて眩しく映る白い外壁、門の向こうに広がる西洋式の庭。紅色の屋根が印象的な擬洋風建築の真新しい屋敷だ。
青銅色の門の前に立っていた黒と紫のゴシックコートを着た長身の男が、屋敷のインターホンを鳴らし「彼女」の使用人が出てくるのを待つ。
何時見ても綺麗な屋敷だな。
……と男は心の中でそっと感想を述べる。
インターホンを鳴らしてから二分と掛からず、使用人は姿を現し、扉を開けて門の方まで駆け寄って来た。
金色の冠を被った黒髪の幼女。
それを見た男は、自身の白髪を掻き上げながら、使用人である幼女を笑顔で出迎えた。
「おはよう。ゴモリーちゃん。お嬢様の様子はどうかな?」
彼女も恭しく頭を下げ、門を開いて男を屋敷に招き入れた。
「ようこそ御出で下さいました。ナオお嬢様もメフィスト様をお待ちです」
メフィストと呼ばれた男を先導し、二人は屋敷の中へ入っていく。「彼女」は応接室で来客のメフィストを待っていた。
細身で透き通る様に白い肌。百六十センチメートル丁度の小柄な容姿。
衣服は桜色のフリルブラウスに、赤いロングスカート。
ビビッドピンクの大きな瞳に、母譲りの白いロングストレートと、両耳の内側から伸びるショッキングピンクの長髪。
それこそが、この屋敷の主人。
五稜ナオの姿だ。
「やあ、ナオちゃん。今日は一つお願いしたい事があって来たんだけどいいかな?」
片手を上げて、メフィストは笑顔で屋敷の主人と挨拶を交わす。彼女も薄らと微笑んで、メフィストに頭を下げた。
「いらっしゃいませ。メフィスト叔父様。御用件は何でしょう?」
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