第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「天使?」  視線をサブナックが拘束している敵兵に落とし、キルケは片手で口元に手を触れてじっと考え込む。 それにしても何故、堕天使が此処へ進撃してきたのか……。 「正体もそれなりに分かった事だ。このままこいつを生け捕りに……」  真新しい殺気を感じ取り、サブナックは敵兵の拘束を解き、素早く身を引いてその者の前から離れた。 軽やかな物音と共に、敵兵の身体にダークグリーンの鏃(やじり)が五本、胸部から首筋に掛けて突き立っていく。 「新手か」  右手に持っていた馬上槍を構え、サブナックは視線を前方に向けて敵の姿を探す。 一体だけではない。 新たに複数の敵達がサブナックとキルケの周りを取り囲んでいる。 「あいつら、味方を……!?」 「口封じのつもりらしいな」  鏃が刺さった敵兵の肉体から黒煙が上がり、それに巻かれてその者の姿は跡形も無く消え去っていく。 グロックを構え直し、サブナックと背を合わせて、キルケも敵兵達を迎え撃つべく視野を霧の中へと向けた。 「やれやれ。今度は堕天使の団体さんが相手か」  軽口を叩くサブナックと黙り込むキルケの前に、重装、軽装、様々な鎧に身を包んだ天使達の軍勢が姿を現した。 数にしてざっと二十体。 それらが二人を包囲し、逃げ場を封じる様にして距離を詰めていく。 「流石に……この数はきつ過ぎない?」 「戦う前から弱音を吐くなよ」  戯けて見せるサブナックの腰を肘で小突き、キルケは不満気な表情を浮かべて敵兵達と睨み合う。 幾ら此方の装備が充実していようと、一度に二十体もの軍勢を相手に出来る保証はない。 敵も此方の実力を理解しているのか、睨み合ったままじっと動きを止めている。 「包囲網さえ崩せれば……」  比較的、軽装な兵士の頭部を狙って、グロック一七の引き金へ指を掛けたキルケの耳に聞き慣れた風の音が届き、彼女は流し目で音の方向を見た。 「あれは……!」  霧の中から竜の頭部を思わせる機首を覗かせ、オレンジ色の飛行兵装(フライトユニット)が低空を飛び、彼女の元に向かって直進してくる。 次第に大きくなる風の音を聴き、敵兵達も飛行兵装に気が付いた。 兵装の軌道を読み取り素早く身を退かせ、一部の兵士達は飛来する兵装を躱し、キルケの方を見る。 進路上に立ち、回避が間に合わず飛行兵装と激突し撥ね飛ばされた(はねとばされた)兵士を一瞥して、キルケも彼女の隣で緩やかに停止した飛行兵装へ目を向けた。  
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