第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「ガーゴイルⅡ! 準備してくれたんだ!」  停止したオレンジ色の飛行兵装を見上げ、キルケの表情が歓喜の物に変わる。 この飛行兵装の乱入に因り陣形を崩され、大きな隙を見せた兵士達の姿を注視しながら、サブナックは馬上槍を振り回し彼女の前から飛び出して、敵兵達の前へと切り込んでいった。 「今が好機だ! お前はそいつにでも乗って記念館の方まで行ってこい! こいつらは俺が引き受ける!」  キルケの反応から、飛行兵装の操縦者が誰であるかを見抜き、サブナックは手にした馬上槍を振るい、動きを止めた敵兵達を薙ぎ倒しながら、彼女に向かって声を張り上げる。 左側面から近付いてきた二体の兵士へグロックの弾丸を浴びせ、キルケも手を振って彼の声に答えた。 「マリスタ!(了解!) あんたもどうか御無事で!」 「おう! 治療費の五万円、お前から取り立てるまで何があろうと死ぬ物かよ!」 「うぐっ……嫌な事思い出させないでよね……」  二十体近くいる敵兵達と交戦しながらも軽口を交わし合い、サブナックは後ろ手を上げてキルケに合図をする。 グロック一七のスライドを引き装填されていた銃弾を排出して、太股のホルスターに戻すとキルケも、欄干を昇り颯爽と操縦席へ乗り込んだ。 「やっぱり、魔力電源で動かしていたのか……」  電力使用の出来ない非常時に備え、ガーゴイルⅡは魔力エネルギーを動力に稼働する魔力電源を内蔵している。 エネルギーの残量を確認する限り、作戦行動時間は約七分。 それまでに市ヶ谷記念館に到着し、幻術結界を発生させるという“マダの核”を破壊しなければならない。 「……ん?」  二対の操縦桿の間に据え付けられた小型のディスプレイ。その上に貼られた一枚のメモに気付き、キルケはそれを剥がし取って、記載された内容を確認する。 「……操縦システム、電子系統のチェック及び、波動砲の搭載やそれを使用する為のテストも済ませてある。こいつに乗れば直ぐに記念館まで急行出来るだろう。お前さんの相方の調子も上々だ。思う存分暴れてやれ!……ね。エフハリスト(有り難う)。整備班長」  市ヶ谷記念館へ移動する最良の手段として、相方を用意してくれた整備班の面々に感謝の言葉を述べ、彼女は再び視線を敵兵達へと向けた。 群がる兵士達も、敵から奪った二本の馬上槍を振り回すサブナックに依って蹂躙され、此方の迎撃に向かう者は誰一人としていない。  
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