第四章 襲い来る堕天使の翅

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   メモに記載された指示に従い、キーボードを叩いてオートパイロットシステムを解除すると、キルケは大きく息を吸い、足下のペダルを力強く踏み込んだ。 「ガーゴイルⅡ……フライトアップ!」  彼女の掛け声と共に、ガーゴイルⅡは旋風を起こして空に浮かび上がり、徐々に高度を上げていく。 二つの槍を振るい敵を蹴散らしつつ、サブナックも空を飛ぶオレンジ色の兵装を見上げ、南西に飛び去るその姿を見送って、堕天使達との戦闘を再開する。 「確かに相方の調子は良さそうね」  操縦桿を握り、相方と共に飛行する感覚を取り戻しながら、キルケはそっと感想を述べた。 新たに追加されたという武装……魔術式集束型波動砲の影響で、操縦感覚も今までの様に軽快とはいかないが、それでもガーゴイルⅡの特性を活かした高機動戦闘を行う上で特に支障は無い。 「……魔導技研より、記念館へ目指す者へ追加連絡を入れておくヨ」  ガーゴイルⅡの通信機からノイズの混じった音声が聴こえ、キルケは前方を向いたまま、その声に耳を傾けた。 今から約十分前に、本部施設で聴いた声と全く同じだ。 幻術結界の正体に気付いた魔導技研の人物が、此方に再度連絡してきている。 「市ヶ谷記念館を目指す飛行兵装の信号(シグナル)を一つ確認シタ。その兵装の乗員へ私から特別に、マダの核に関する注意事項を説明するヨ。ちゃんと耳に挟んでおきタマエ」  操縦席に据え付けられた通信機のスピーカーを流し目で確認しながら、キルケは半ば呆れた表情を浮かべて、魔導技研からの説明を待つ。 「本来……マダの核とは、魔界北方に咲く幻果樹の種でアル。繁殖力はそれ程旺盛でも無いガ、自己防衛の為に幻覚を見せる結界を作り、近付く生物を片端からトリップさせてしまう危険な植物でもあるノダ。今回、それが市ヶ谷記念館に現出してしまった訳だが──」 「無駄話はいいから、要点だけを伝えなさいよ」  先の通信から間も置かず耳障りな笑い声を発し、一からマダの核に関する説明を行う人物へ、キルケは不満気に言葉を漏らした。 彼女が欲する情報は、マダの核が持つ幻術結界への対処法だ。 それに準ずる情報以外は全て聞き流してしまおう。 ……そう思いつつ、彼女は操縦桿を握り締め、機体を市ヶ谷記念館の方角に向ける。 距離は本部施設から西南西へ僅かニ百メートル。緑の霧に覆われた視界の中に一つ、建物の影が映り込んだ。  
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