第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「──虫食い穴(ワームホール)の反応も見られない事カラ、恐らくマダの核を召喚した人物が市ヶ谷記念館周辺に居る可能性も高イ。充分に気を付ける様ニ。それでは、マダの核を破砕する手段への説明に移行しようカ」 「それを先に言いなさいよ!」  通信機を叩き、憤慨するキルケの声も魔導技研の人物には届いていない。 彼女が操縦するガーゴイルⅡも、既に市ヶ谷記念館に到達していた。 ≪魔界事変≫以後、幾度と無く改修された記念館の屋上部に、生物の臓器を思わせる赤い楕円形の巨大な物体が乗っている。 所々に見える黒色の窪みから緑の霧を噴出させ、その巨大な物体は柱の様な赤黒い構造物を八方に伸ばし、記念館周辺を制圧していた。 「あれが“マダの核”……!?」 「マダの核は外敵が立てる音へ過敏に反応シ、自己防衛の為、近付く生物へ積極的に攻撃を仕掛けてクル。植物が動物に襲い掛かる事もマタ、魔界ではよくある事だから気にしない様ニ」 「魔界の事とかどうでもいいから!」  彼女の口から出た非難も知らぬまま、その人物は漸く本腰を上げ、マダの核を破壊する手段について説明を始める。 記念館周辺を飛び回るガーゴイルⅡから漏れる風の音に反応し、赤い楕円形の物体……マダの核は赤黒い構造物を二本、触腕の様に伸ばして、ガーゴイルⅡを絡め取ろうと攻撃を開始する。 「おっと……!」  緩慢な動きで引き伸ばされた構造物を、右斜め四十度に急降下する事で回避し、キルケは操縦桿を引いて機首をマダの核に向け、足元のペダルを踏み込み、市ヶ谷記念館屋上部に目掛けて急加速を行った。 「良し、捉えた!!」  操縦桿の上部に着いた黒色のカバーを開け、隠されていた赤いボタンを押し込む。 両翼の飛行機関についた前面のシャッターが開き、内部に搭載された十五ミリ機関銃の銃身(バレル)が迫り出し、マダの核に向けて集中砲火を浴びせ掛ける。  目標と擦れ違う度、空中で八の字を描く様に旋回を続け、キルケは執拗に攻撃を加え続けた。 両翼部から機関銃の空薬莢が飛び散り、記念館周辺にばら撒かれていく。 「マダの核は物理的な攻撃を吸収、反射させる結界をも形成する能力を有する無闇に突っ込むのは──」 「はい……?」  魔導技研から嫌な知らせが届き、キルケは表情を凍り付かせて、操縦桿上部のボタンから親指を離す。  
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