第四章 襲い来る堕天使の翅

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   キルケはにやりと笑みを浮かべて、右手で波動砲のグリップを握り締め、左手で操縦桿を下げて機体を緩やかに下降させた。 マダの核も上空を飛ぶガーゴイルⅡに対する攻撃手段を持たないのか。 只、じっと屋上に座して此方の動向を注視している。 「目標捕捉……」  キルケはヘッドバイザーを両目に掛け、シートの脇から照準機を持ち出して、息を殺しつつそれを覗き込んだ。 赤色のモニターに楕円形の熱源が一つ浮かび上がり、十字のマークが印された二重の円がその中心を捉える。 マーカーの下部にロックオンの字が表示され、キルケは引き金に指を掛け、波動砲の安全装置(セーフティ)を解除した。  モーターの稼働音が操縦席に届くのと同時に、機首上部に装着されていた波動砲の砲身が伸び、マダの核の方向に合わせて回頭する。 魔力エネルギーの充填も急速に行われ、砲口に赤色の光が灯り、ガーゴイルⅡの周りに稲妻が疾った。  操縦桿から左手を放し、両手で波動砲のグリップを握り締めて、キルケは眼下に座するマダの核を見下ろし、渾身の掛け声を放って引き金を引いた。 「ランヴォ!!(輝け!!)」  機首上部から一筋の閃光と魔力エネルギーの電流が疾り、波動砲の砲口から赤色の光線が放たれる。 強烈な反動を受けて、操縦席に身を押し付けられながらキルケは歯を食い縛り、眼下の敵を凝視し続けた。 ガーゴイルⅡから発射された赤色の波動光線はマダの核の上部へ直撃し、核から生える柱の様な構造物を吹き飛ばして、本体をじわじわと焼き払っていく。 やがてマダの核が生んだ緑の霧も晴れ、市ヶ谷一帯に元の青空が戻ってくる。  目映い閃光も消え、キルケは掛けていたヘッドバイザーを額に当てて、眼下の光景に目を向ける。 柱の様な構造物は市ヶ谷記念館の周りに四散し、本体であるマダの核も波動砲の光に呑まれて、跡形も無く消え去っていた。 「倒せた……?」  ガーゴイルⅡを市ヶ谷記念館の屋上に降ろし、キルケはマダの核の残骸を確認する為、操縦席を覆うハッチを開いた。 「ふむ。マダの核の反応も消えて、幻術結界も解けて元の空間に戻って来れた様ダネ、後は……」 「ん……?」  マダの核の撃破を受けて魔導技研から入った連絡が急に途切れ、音声も無機質な雑音(ノイズ)に変わる。 幻術結界も消滅した事で、電子機器も利用可能となっている筈だろうに。 不審に思いキルケは、そっと通信機に耳を寄せた。  
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