第四章 襲い来る堕天使の翅

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  相方を損壊させた魔人へ母国語で悪態を吐き、周りへ警戒の眼を向ける。 雲も少なく澄み切った青空の下。煉瓦張りの地面が広がる空間に敵の姿は見えない。 「……見つけたら只じゃ置かない!」  キルケは苛立ちから右足で地面を蹴った。 ガーゴイルⅡを落下させた後に、奴は姿を眩ましている。 両目を閉じ、大きく息を吐き出した彼女の耳元へ、嗄れた男の声が響き渡った。 「只で済まないのは、君の方では無いのかね?」 「……いっ!?」  背後から何者かの殺気を感じ取り、キルケは身を捩らせつつグロックの銃口を自身の背後へ向け、銃爪に指を掛ける。 「これはこれは。面白い御挨拶だな」  耳元で轟いた銃声など意に介さず、一つ眼の魔人は銃弾を左手の人差し指と薬指で摘まみ取り、笑い声を漏らして彼女の顔を見下ろした。 一つ眼の魔人も筋骨隆々としていて、ナオの従者であるサブナックよりも少々背が高い。 「あんたこそ、どっからともなく現れて……まるでカツァリダみたいね」 「ふむ、カツァリダ……?」  此方を小馬鹿にする様にほくそ笑み、顎に右手を当てて首を捻る魔人の顔を、キルケは琥珀色の両目で強く睨み付けた。 「日本語でいう“ごきぶり”って事よ!!」  硝煙の上がるグロック一七を両手に持って、キルケは身を翻し敵の前から後退して、魔人の身体に狙いを付ける。 小破させられた相方の仇は討つ。 そう意気込むキルケの動きに合わせ、一つ眼の魔人も硝煙の上がるグロックの銃口を一瞥し行動に出た。 「ふん、見くびられた物だな!」  彼女が引き金へ指を掛けるよりも早く、相手との相対距離を詰め、グロックの銃身を右手の甲で下から突き上げて、軽々しくそれを前方へ弾き飛ばす。 「くっ!?」  手にしていた拳銃を弾かれ、キルケは続け様に放たれる魔人の左フックを両腕を使って受け止め、敵から距離を取ろうと、身を屈めてバックステップを行う。  繰り出される敵の追撃を何とか掻い潜り、後ろへ跳んだキルケの身体は、背中から地面の上へと叩き付けられる。 背負っていた長剣が地面に擦れて火花が上がり、彼女は整備班から受け取ったもう一つの武器の事を思い出した。 地面に尻餅を着き、キルケは左手を地面に着けた状態のまま姿勢を正し、自身の背中へ右手を回して長剣のグリップを握る。 「ふむ。それも只の飾りでは無いらしいな」 「……そうね。胡散臭い武器だけど、無いよりは増しってね!」  
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