第四章 襲い来る堕天使の翅

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  動きを止めて、魔力エネルギーの光球を左手に生み出し、一つ眼の魔人はじっとキルケの動向に目を配る。  此方の実力を試しているつもりか。 キルケも軽く笑みを浮かべて起き上がり、長剣を鞘から引き抜いてそれを両手に持ち構えた。 分厚いオニキスブラックの剣身がぎらりと煌めく。  グリップと鍔の間に見える銃器の引き金(トリガー)に似た箇所を覗いて、キルケは視線を一つ眼に戻す。 「御前の飛竜を墜した炸裂光球だ。これも凌いでみせろ」  飽く迄、此方へ挑戦する姿勢を崩さぬまま、一つ眼の魔人は左手に浮かべていた黒色の光球を、キルケに向けて撃ち放った。 秒速百四十キロメートル。球形から長円形に変じて高速で飛来する光球を睨み、キルケは両手に持った長剣を縦一文字に振るう。 「だああああーっ!!」  長剣の切っ先が光球を捕らえ、それを真っ二つに断ち切って、キルケは長剣を前面に押し出したまま、一つ眼の魔人に向かって突進していく。 「良い動きだが、単純過ぎるな」  勢いに任せて敵の肉体を突き通そうとするキルケの動きを見切って、魔人も相手の進路から身を退き、両手に先と同じ質量の炸裂光球を生み出し、彼女の背にそれを押し付ける為、両手を伸ばした。 「──そうは、いくか!!」  相手の動きを捉えていたのは彼女も同じだった。 足を踏み締め上体を捻り、両手に持った長剣を振り回して、二つの光球ごと魔人の掌を切り裂き、透かさず長剣を振り上げて刃を返し、魔人の肉体を袈裟斬りにしようと、力任せに剣を振り下ろした。 「……うっ!?」  地面の中へ吸い込まれる様に、魔人の巨体がキルケの視界から消えて、振り下ろした切っ先が足元の煉瓦を穿った。 「くそっ……また消えたのか!?」  長剣を構え直してキルケはその場に留まり、頻りに首を振って魔人の姿を探し回る。 ガーゴイルⅡを墜落させた時と同じ様に、相手はまた姿を眩ました。 交戦する際の言葉を訊く限り、大人しく逃げ帰ったとも思えない。 焦燥感を募らせながら、キルケは摺り足で後ろへ下がり背後へ首を回す。 奥には市ヶ谷記念館が見え、その手前で操縦席のハッチを潰された相方が、地面の上で鎮座している。  遠くから魔力の反応を感じ、キルケは背後から正面に視線を戻した。 変わらず敵の姿は見えない。それなのに、魔力の反応は徐々に此方に向かって接近している。  
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