第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「……うぐっ!?」  自身の左脇腹に鈍い衝撃が走り、彼女は其方へ目を向けた。 装甲服が焼け焦げて黒く変色し、其処から小さな白煙が上がっている。 「くう……うう……」  焼けつく様な痛みを覚え、次第に込み上げてくる吐き気を抑えて、キルケは顔を顰め(しかめ)ながら周りの様子を注視する。 変わらず、彼女の周囲に敵の姿は見えない。 「ううっ、あれは……」  虫食い穴に似た黒色の光球が幾つか地面の上に浮かび上がり、人魂の様に揺らめきながら此方へと近付いてくる。  脇腹に伝わった衝撃は、これに因る物か。 密かに近付いてきた黒色の光球が自身の身体に触れて爆発し、装甲服を焼き焦がして此方へダメージを与えたのだ。 「冗談じゃ、ないわよ……」  攻撃の正体を掴み、敵の卑劣な戦略に憤りを感じて、キルケは間近に迫った炸裂光球を長剣で打ち砕き、姿を消している魔人へ声高く乱暴に怒号を発する。 「隠れてないで、とっとと出て来い! この“カツァリダ野郎”! 出ないと眼ん玉ほじくるぞっ!!」  手にした長剣を四方八方へ振り回し、片端から炸裂光球を破壊していく中。 グリップに付いた魔導ジェネレータの起動装置。キルケの指がその引き金に触れ、知らず知らずの内にそれを引く。 「出ないなら、此方から引き摺り出してやるわ!」  目に見える全ての炸裂光球を落とし、キルケは両手を返して黒い剣身を地面に向け、長剣を深々と煉瓦張りの地面へ突き立てた。 地面を穿つ耳障りな音に紛れ、柄や鍔に巻き付いたコード線から魔力の電流が流れ、剣身から地面の下に埋もれた切っ先に向かって金色の光が疾っていく。  猛烈な衝撃波が地面を伝わり、敷き詰められた赤と白の煉瓦が空中へと舞い上がった。 光に満ちる長剣を中心に、半径三メートルのクレーターが形成されて、キルケの表情が驚きの物に変わる。 「……えっ。何だこれ」  オニキスブラックの剣身がサンライトイエローに変色して輝き、刃の部分から白い稲妻が絶え間無く疾り続けている。 剣の鍔やグリップ、両手のグローブが絶縁体となり、剣身から流れる電流を遮断してくれているお陰で、此方に大きな負担は掛からない。  単なる頑丈な長剣から、稲妻を放つ魔導剣に変形した武装……ラスタバンを眺めて、キルケは整備員の桐谷鈴華が語った魔導重剣の解説を思い出した。 機動ユニット等の魔力ジェネレータと連動する事で様々な機能を拡張出来る。  
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