第四章 襲い来る堕天使の翅

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  視力を失われた隙を突き、此方へ猛攻を仕掛けるつもりの様だ。  再度……此方に向けて、魔力エネルギーの電流を帯びた剣風が放たれた。 それも一つだけでなく複数の剣風が一定の方向から迫ってくる。 目を潰されても魔力の反応を肌で感じ、敵の攻撃を把握する事は出来る。 「数撃てば当たると踏んだか……」  展開させていた朱色の障壁を片手で操り、飛来する複数の剣風を打ち消しながら、魔人は詠唱を唱え続けた。 雷の剣風を放つ敵の気配は正面から自身の背後へと移動し、魔導剣から放出される魔力エネルギーの濃度も急激に上昇していく。 視力が回復しない内に背後から此方へと忍び寄って、強烈なエネルギーを放つ魔導剣を振るい、一太刀浴びせるつもりか。  相手が見せる戦法を姑息と嘲り、魔人は≪詠唱≫を止めて背後へと振り向く。奪われた視力も次第に回復してくる。 「防御から攻撃へ移行させる」  精神を集中し、朱色の障壁を魔力エネルギーの粒子に分散させて自身の両腕に集めると、上半身を捻って右腕を大きく振り回し、背後から感じられる気配に向けて、握り締めた拳を強く前面に打ち出した。 障壁の持つ強固なエネルギーを攻撃に転用した強烈な一撃。威力は白犀(しろさい)の体当たりにも匹敵する。生身の人間ならば只の一発で再起不能となり得るだろう。 「たあっ!」  相手も魔人の反撃を見抜いていたのか、その場で地面を蹴り、高く空中へと飛び上がって、打ち出された魔人の拳は空を切る。 一つ大きな眼の付いた顔を空中に向け、魔人は空に浮かぶ人影を見つめた。 ぼやけた視界もはっきりとした物に変わる。 空を跳ぶ人影の先で、激しい閃光が疾り、魔力エネルギーの電流が空中へと放出された。 「どっせええいッ!!」  両手に持った魔導雷撃剣を振りかぶり、対閃光防御用のヘッドバイザーを掛けたキルケが、下方にいる一つ眼の魔人に目掛けて強襲を仕掛ける。 魔導剣を一直線に降り下ろし相手の肉体を両断しようと、彼女の面持ちも気迫充分な物となり、口からは鮮烈な掛け声を放つ。 「ふむ。そんな子供騙しに掛かると思ったのか!!」  魔力エネルギーを込めた両手を突き上げ、魔人は降り下ろされた魔導雷撃剣を掴み取った。 落雷を受けたかの様な猛烈な衝撃と熱が全身に伝わり、魔人も鬼神の如く憤怒の表情を浮かべて、頭上で力を込めるキルケの顔を睨み付ける。  
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