第四章 襲い来る堕天使の翅

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  再び活気に満ち溢れた表情を浮かべて、一つ眼の魔人は深く腰を下ろし、キルケに負けじと声を張り上げる。 袈裟懸けに振り下ろされたラスタバン・ケラヴノスの剣身と、魔人の頭上を守る様に展開された朱色の障壁が激突し、眩い閃光が二人を包み込む。 互いの力が拮抗する激しい鍔迫り合いの中。 魔導剣から放出された余剰エネルギーが、落雷となって周囲に降り注ぎ、晴れた昼空が日蝕の様な薄暗い闇に包まれていく。 「だああああーッ!!」  鮮烈な掛け声を発し続けて、キルケも障壁を斬り裂く為に両手両足へ力を込める。 腕力や脚力を強化させるガントレットやブーツの機能を最大限に引き出して、全てのエネルギーを魔導剣に注ぎ、朱色の障壁へと斬り込んでいく。  彼女と対する魔人も魔導剣の斬撃を跳ね返すべく、残った魔力エネルギーを全て防御に転用させ、障壁の強度を最大にして相手の攻撃を迎え撃つ。 大きな一つ眼をかっと見開き、歯を食い縛りながら、伸ばされた両腕に力を込めて、剣身を受け止めている障壁を安定させていく。  白熱したこの鍔迫り合いも、やがて終わりが訪れる。 両者共に魔力エネルギーを使い果たし、魔導剣の剣身から稲光が消え、朱色の障壁も掻き消されていく。 「これは……“相打ち”とでも言うべきかね」  魔導剣を握り締めたまま切っ先を足下に落とし、息の上がったキルケの顔をじっと見下ろして、一つ眼の魔人は額に汗を滲ませながらにやりと微笑む。 魔力エネルギーは使い果たしたが、余力で彼女の肉体を粉砕する事も充分に可能だ。 勝ち誇った様に綻びた表情を向けてくる魔人へキルケも鼻で笑い、琥珀色の瞳をぎらつかせて猛々しく口を開く。 「さあ、どうかしらね。勝負は最後まで解んないわよ!!」  気合いの叫びと同時に、キルケは相手の不意を突き、足下に向けていた魔導剣を構え直し下段から上段に向け逆袈裟に振り上げて、魔人の右腋から左肩に掛けて深々と斬撃を浴びせた。 サンライトイエローに輝く剣身に帯電していた電流が切断面に流れ込み、魔人の肉体を感電させて骨格筋が急速に麻痺していく。 「ぬお……っ!?」  力を使い果たしたと油断した一瞬の隙を突かれ、攻撃を受けた一つ眼の魔人の心に怒りが込み上げてくる。 胴体部を切り裂かれた事に因る激痛と、魔力の電流に因る筋肉の痺れを堪えながら、彼も右腕の拳を握り締め反撃の態勢に入る。  
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