第四章 襲い来る堕天使の翅

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  此方に一太刀を浴びせ、したり顔になって笑う相手の顔を無言で鋭く睨み付け、彼女の鳩尾に目掛けて握り締めた拳を一直線に打ち込む。 「かは……っ!?」  体力を消耗し疲労から息を切らせていた彼女も、魔人の反撃に対応し切れなかった。 眼を剥いて口から痰を吐き散らし、魔導剣のグリップから両手を離して、キルケの身体は後方へと弾き飛ばされる。 「……全く、執念深い奴だ」  魔力エネルギーを使い果たした上、負傷した身体では思う様に力も発揮出来ず、魔人が打ち込んだ拳も相手の意識を失わせる程度の威力に留まった。 肉体の麻痺も加速し、魔人も切り口から大量の血を流してその場に崩れ去る。 「不覚……」  一つ眼をキルケに向けて、魔人は彼女の様子を確認する。 ペパーミントグリーンの長髪を地面の上にばらし、両目を閉じて身体を横たえたまま、ぴくりとも動かない。 魔導剣も彼女の前に落ち、魔力エネルギーを断たれ、元のオニキスブラックの長剣に戻っている。  意識を失った相手へ止めを刺そうにも、身体も満足に動かない。 うつ伏せに倒れ、苦痛に声を漏らす魔人の元へ、女性的な顔を持つ白いトレンチコートを着た別の魔人が姿を現した。 「君とも有ろう者が、此処まで追い詰められているなんて。一体どうしたと言うのかな。フィールカーター君?」  念力の様な力で一つ眼の魔人……フィールカーターの身体を起こし、白いコートの魔人は薄らと笑いを浮かべる。 「マダの核を破壊した“騎兵”と交戦しただけさ。なかなか面白い相手だったがな……」  魔人の念力を利用して出血を抑え、姿勢を正しながらフィールカーターは近くで横たわるキルケの姿をじっと見下ろした。 「──どうする? 止めを刺そうか?」  にやりと微笑んだまま、魔人は周囲から魔力エネルギーを呼び集めて、フィールカーターに問い掛けた。 彼が力を行使すれば、彼女を意図も容易く殺す事が出来るだろう。 キルケを観察しながら答えを待つ魔人へ、フィールカーターは首を横に振り、淡々と口を開いた。 「いいや。そっとしておいてやってくれ。彼女は私を愉しませてくれたからな」  何処か満足気な彼の発言を訊き、白いコートを着た魔人も軽く息を吐いて、呼び集めた魔力エネルギーを周囲に解き放つ。 「……まあ。彼女を生かしておいた所で、我々の計画に支障は無いものね」  
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