第四章 襲い来る堕天使の翅

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   人間達の運営する防衛組織の本部施設を襲撃し、白いコートの魔人も相手の力量を把握している。 この世界の人間や、それに協力する魔人達の力も、あの“御方”の前では何の意味も成さないだろう。 意識を失ったキルケを一瞥し、白いコートの魔人は踵を返して両目を閉じたまま術の≪詠唱≫を始めた。 彼の詠唱に呼応して、自身とフィールカーターの身体が宙に浮かび上がり、二つの蒼い閃光となって空に煌めく。 「我々の目的は既に果たされた。会談場へ帰還し、他の同士達と今後の計画について、議論を交わす事にしようか」 「それは良しとして、パイモンよ。女剣士とアモンの隻腕の適格者は如何にする?」  蒼い閃光に身を包んだ女性的な顔立ちの魔人……パイモンは、フィールカーターの問いに気さくな表情を浮かべたまま、ゆったりと口調で答えた。 「ナナサギ君の方にも迎えは来ている。それと……怜司君は、暫く此方へ戻っては来れないんじゃないかな」 「どういう事だね?」  蒼い閃光に包まれた状態のまま、怪訝そうな表情を浮かべるフィールカーターへ、パイモンは左手で自身の右腕を指差し、無言で右腕をなぞり上へと動かして、ウィンクをしながら自身のこめかみを左手の指でそっと叩いた。 彼のジェスチャーを黙って観察し、フィールカーターはその意図について理解する。 「成る程、“彼に乗っ取られた”という事か」 「御明察。怜司君の身体を此方へ返却するのも、まだ先の事になるかもしれないね」  葛原怜司が冥府の調停者と交戦し、深手を負わされた事も、一帯の魔力反応を収集する“魔導ネットワーク”を介して把握している。 彼が戦力から除外されるのも、≪堕天使の翅≫にとって不憫な事柄でもあるが、彼の犠牲に依って得られた物もあり、その事で一つの不利益も存在しない。 気品良く笑い声を上げ、パイモンは仏頂面となったフィールカーターを連れて、市ヶ谷記念館から北北東の方角に向け、蒼い光を靡かせながら悠々と飛び去っていった。 …◇…◇…◆…  午後二時四十分。東京都新宿区市谷本村町。魔導対策機関、本部施設周辺区域。 けたたましく鳴り響く金属音と同時に、左足首と右肘から先の部分を欠損した黒づくめの魔人が、中空からコンクリート片に目掛けて墜落していく。 折れた黒い片刃の剣身も円を描いて彼の傍らに落ち、亀裂の入ったアスファルトの上へ突き立った。  
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