第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「終わりだな」  落下した黒づくめの魔人を追い、半月刀(シャムシール)を携えた紫の長髪を持つ女性魔人も、砕け散ったコンクリート片の前に駆け寄り、手にしていたシャムシールを相手の喉元に突き付ける。 「何か言い残す事は無いか?」  片腕と片足を失い、全身を血に染めた状態のまま、幻術結界も解かれた後も、十分近く奮闘した相手へそれなりの敬意を送り、女性魔人はシャムシールを構え、辞世の有無について問い掛けた。 五秒程待っても、黒づくめの魔人はアメジストの瞳を女性魔人に向け、沈黙を保ち続ける。 「命乞いも悔恨の言葉も無しか。立派な魔人だよ、お前は」  羨望にも似た言葉を放ち、女性魔人も相手の瞳を見つめ返して双眸(そうぼう)を細め、止めを刺すべくシャムシールを持つ左手に力を込めた。 「──スカイ・アーバレスト!!」  シャムシールの切っ先が黒づくめの喉に触れた途端、女性魔人の背後から白い一本の矢が、風を引き裂いて此方へ飛び込み、左腕の肘へ突き刺さる。 「……何だと?」  肘に突き刺さった白い矢が風の帯に変形し、彼女の左腕をきつく縛り上げて握力を奪い、手に持ったシャムシールを落下させた。 「主人(マスター)か……」  左手で喉元を触り、喉元の創傷を確認すると黒づくめの魔人は、ぼろぼろのマフラーを羽の様に動かし身体を宙に浮かせて、左腕を拘束された女性魔人の前から退避する。 魔力感応を利用して、此方に向かって来る者の正体を理解した黒づくめの魔人は敵から顔を逸らし、その方を覗き見た。 「遅れて御免なさい……!」  二対の白い羽衣を揺らめかせ、水色のオーラを身に纏った橙色の髪の少女が、白い風のボウガンを両手に持ったまま、アスファルトの上を滑りながら、黒づくめの魔人に向かって近付いていく。 「アンドラス……」  少女は黒づくめの魔人……アンドラスの様相を目の当たりにして驚いた様に目を見開き、短く声を漏らした。 左足の膝から先と右腕の肘から先が欠損し、腹部を深々と裂かれて、血塗れになった彼の姿から目を背けそうになり、彼女の表情も次第に凍り付く。 精神感応に依り、アンドラスの容態も理解していたが、ここまで酷い物だったとは……。 後少し到着が遅れていれば、彼の命も無かった事だろう。 「アンドラス……?」  左腕を縛る風の帯に目を向けつつ、女性魔人は先程まで交戦していた敵の名前を訊き、軽く驚きの表情を見せた。  
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