第四章 襲い来る堕天使の翅

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  「……そうですね。幻術結界が消えて暫く経ってからです。それが消滅した事で精神感応も利用出来る様になり、お嬢様やサブナックの位置を理解する事が出来ました」 「で、俺が堕天使の団体さんを追い払った頃に、全身傷だらけのお嬢が転がり込んできたんだよな」  ゴモリーとサブナックも互いに目を見合わせ、合流した時の状況について話し合い、マリアへ過程を説明していく。 やや断片的に解説する二人を纏める様にナオも腕を組み、にやりと微笑みながら口を開いた。 「サブナックに怪我の治療を頼み、その施術の最中にゴモリーも本部施設から出て、私達の元へ駆け付けて下さいました。私が怜司様と交戦していた折り、彼女も幻術結界の中で奮闘し続けていた様ですわね」 「いいえ。それ程の活躍もしてはいません。上條様達と合流したのは、幻術結界が消えた後でしたから」  目を伏せるゴモリーへ微笑み掛け、ナオはマリアの方へ視線を送り、これからの行動について彼女に伝令を伝える。 「……それでは。一旦、本部に引き返し上條様と合流して、今後の活動について魔導対策機関の皆様と話し合いましょうか」 「はい。分かりました」  ナオの言葉を訊いて立ち上がり、マリアはアンドラスの前に立つサブナックと目を合わせて、彼にそっと会釈をした。 「アンドラスの治療……宜しく願いします。彼も敵との戦いで大怪我を負ってしまいましたので」 「あいよ。任せておけ」  軽く手を上げ、本部施設の方向へ歩き去るナオ、マリア、ゴモリーの三人を見送ると、サブナックは腰に手を当てて、アンドラスの怪我に目を通す。  全身に見える細かい創傷に、腹部は大きく裂け其処から彼の腸(はらわた)が覗いている。 四肢も左腕を除き、全て失われていた。 痛覚の操作を始めとし、骨や神経組織への損傷に因る肉体の可動範囲の制限。 それを強引に捩じ曲げる身体の応急修復能力。 ……それらの技術(クラフト)を備えた彼で無ければ戦闘続行はおろか、四肢を破壊され失った際に襲い来る痛みにすら耐えきれぬ事だろう。 「しかし、あのお前が此処まで深手を負わされるなんてな。一体どんな奴と殺り合ったんだよ?」  実力者であるアンドラスを追い詰めた相手の存在を知り、嬉々として言葉を投げ掛けるサブナックへ、彼は薄くアメジストの瞳を開き、ぶっきらぼうに言い放った。 「百人隊長と名乗る顔も知らない只の女剣士だ」  
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