第四章 襲い来る堕天使の翅

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  …◇…◇…◆…  午後七時前。東京都新宿区市ヶ谷本村町。魔導対策機関本部施設。 午後二時半を機に開始された正体不明の軍勢に依る強襲から四時間半が経過して、既に敵達の攻撃も沈静化し魔導対策機関や魔導技研の各メンバーが、今後の対策と防衛。基地施設全体の修繕の為。休む間も惜しみ活動を続けていた。 「……ううん」  多くの負傷者達でごった返す本部施設三階、簡易療養所にて。ペパーミントグリーンの髪の女性が両目を開き、意識を取り戻してゆっくりと身体を起こした。  市ヶ谷記念館にて一つ眼の魔人と交戦した折り、強烈な一撃を貰い、戦闘不能に追い込まれた事を思い出し、彼女はベッドから降りて周囲を見回す。 窓から外の景色を見れば、日も既に暮れ、夜の暗闇が辺りを支配していた。 魔人との戦いから、何時間か経過してしまっている様だ。 「……大丈夫。生きてる!」  あの場、あの状況で殺されずに済んだ事へ、ペパーミントグリーンの髪の女性は自らの強運さを噛み締め微笑を湛えつつ、ぐっと右手の拳を強く握った。  白い病衣に袖を通したまま、負傷者達の影に隠れてこっそりと簡易療養所を抜け出し、ペパーミントグリーンの髪の女性は、第二戦闘班のオフィスがある方向へと歩き出す。 主任である上條や、同じ班のメンバーである浦賀は無事でいるだろうか。 幻術結界に閉じ込められた中でも、何とか生存してくれていると信じたいが……。 「……あ、キルケちゃん。もうノープログレムって感じかしら?」  三階の階段付近。不安に駈られていた女性の前を横切る様に、作戦資料室から液晶タブレットを右腕に抱えた眼鏡の女性が姿を見せ、彼女に視線を送って軽く左手を振った。 「……ええ。まだお腹もずきずきするけど、多分、大丈夫。心配はいらないわ」  ペパーミントグリーンの髪の女性……キルケは頭を下げ、眼鏡の女性と共に歩き階段を降りていく。 この調子なら、きっと上條チーフも無事でいるのだろう。 眼鏡の女性の態度から推察し、安心した様に微笑みながら、キルケは彼女から現在の状況について簡潔に聞き出そうと声を掛けた。 「所で、ウーちゃん。今の状況はどうなってるの? 此方が保管している秘宝は無事?」  赤いフレームの眼鏡を掛けた女性……浦賀達美は階段を下り、二階に向かいながら彼女の問い掛けに首を振って否定する。 「……アモンの隻腕もソロモン王の鍵も、もう此処には無いわ」  
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