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「無くなったって……やっぱり敵に奪われたの?」
一階へ下り、第二戦闘班のオフィスがある方向を目指して歩きながら、キルケは前を行く浦賀へ質疑を繰り返す。
慌ただしく廊下を走り回るメンバーを掻き分けつつ、彼女もキルケの問いに応答した。
「これは五稜さん達とのトークで知った事なのだけれど、“アモンの隻腕”の中に敵の一味が隠れ潜んでいたらしいの。幻術結界を作られて私達を混乱させている間に、封印処置室へスニーキングを果たしていた敵が、第五戦闘班と駐在中のマジシャン達をオールデストロイさせて、五稜さんをもクライシスに陥れた」
「えっと?」
浦賀が見せる何時もの癖に困惑させられ、キルケは頬を掻いて話の内容を整理し始める。
第二戦闘班のオフィスに近付き、聞き慣れた男性の声が浦賀の代わりに襲撃時の内容について解説を行った。
「秘宝回収班が発見した“アモンの隻腕”は最初から敵の手に落ちていたという事だよ。それを知らぬまま封印処置室へ持ち込んだ結果。第五戦闘班は壊滅、魔導師達も皆、惨殺されてしまった。処置室に駆け込んだ五稜さんの活躍のお陰で、これ以上……大きな損害も出さずに敵を撃退する事も出来たんだ」
「……上條チーフ!」
第二戦闘班のオフィスの前で上條敬介と再会し、キルケは思わず声を張り上げた。
彼もまた敵と交戦し負傷したのか、右腕に湿布が貼られ、それを覆う様にして上から包帯を巻いている。
それに視線を向けてくるキルケの顔を覗き、上條も冷めた表情のまま自身の右腕に目を落としてこう答えた。
「ああ、心配は要らないよ。ちょっと炎症を起こした位だからね」
キルケに頭を下げ、上條は彼女の前に立つ浦賀へ同行する様に指示を出すと、そのまま階段のある方へと足を進める。
「キルケさん。君のデスクの上に、襲撃事件に関する報告書が置いてある。今後の活動に関わる重要事項だから、きちんと目を通しておいて欲しい」
「貴女がスリーピングしている間に、エネミー達への対策会議が開かれていたのよ。上條チーフの言うレポートに、そのミーティングで交わされた情報が纏めて記載されているわ」
浦賀は黒革製のハードケースから、液晶タブレットを取り出し電源を入れ、キルケへ説明を行いつつ、タブレットの液晶に右手の指を置き黙々と操作を始める。
「え、ああ。了解です。それと上條チーフとウーちゃんは何方へ?」
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