第四章 襲い来る堕天使の翅

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   すれ違い様に指示を受けてその場に立ち尽くしながら、キルケは上條の背中に向け一つ質問を出した。 彼も歩幅を狭め速度を落とし、後ろに立つ彼女に向けて回答する。 「残骸解析班から呼び出しがあったんだ。襲撃を仕掛けた敵の死骸、その解析結果が出たらしくてね」  彼女の質問へ簡潔に答え、上條と浦賀はキルケの前から足早に歩き去っていく。 改修作業の為、工具を持って往来する班員達を避けながら、キルケも第二戦闘班のオフィスへと立ち入った。  綺麗に整頓された謹慎中及びリハビリ中の安藤と五十嵐のデスクの前を通り、キルケは自身のデスクと対面し、キャスター付きの椅子を引き出して、深々と腰を掛ける。 卓上には複数枚のプリント用紙が綴じられたファイルが置かれていた。 これが上條の言う報告書なのだろう。  机の傍らにはキャリーバッグが置かれたままになっており、帰国からまだ一日と経っていない事を実感させられて、キルケは頭を抱えたくなる様な衝動に襲われた。 報告書を手に取り、キルケはざっとプリント用紙の枚数を確認して深く息を吐き出す。 「これ全ッ部。敵さんとかの資料……?」  プリント用紙も百枚近くもある。それらに会議の内容や判明している敵の情報等が記載されていた。 首を振りながらキルケはもう一度ファイルを開き、一番上のプリントに目を通す。 「一番上から襲撃の概要と此方の被害状況か。頭、痛くなりそう……」  一枚一枚、プリントの文章を速やかに読み取り、キルケは椅子の背凭れに身を預ける。 今回、魔導対策機関及び魔導技研を襲撃した敵の軍勢“堕天使の翅”(フォーリン・エンジェルズ・フェザー) ……彼等の名称も、キルケが搭乗するガーゴイルⅡの通信記録から解析されていた。  本部施設、襲撃の概要も報告書の中では、こう解釈されている。 堕天使の翅の目的。それは歌舞伎町閉鎖区画から回収された魔導原書“ソロモン王の鍵”の強奪と魔導対策機関へ甚大な損害を与える事にあると考察される。  本部襲撃の数時間前に、ソロモンの鍵に続く形で回収された秘宝、“アモンの隻腕” 敵はその中に身を隠し、封印処置室への侵入を果たす。 ……どうやら、閉鎖区画に放置されていたアモンの隻腕も、堕天使の翅が奇襲の為に仕組んだブービートラップであり、稀少価値の高い秘宝を二つ発見したと思い込み、注意力を欠いた我々はその隙を突かれる事となった。  
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