第四章 襲い来る堕天使の翅

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   それと時を同じくして、市ヶ谷記念館屋上部には幻果樹の種である“マダの核”が何者か(堕天使の翅の一味であると推測される)の手に依って配置され、市ヶ谷一帯はその核が生み出した幻術結界の中へ閉じ込められる事となった。  魔力エネルギーの瘴気を受け、幻術に因り変わり果てた施設の姿を目の当たりにし、多くの戦闘員が身体の不調を訴え、幻術結界に続いて姿を見せた敵兵達の攻撃を受け、防戦一方に追い込まれている。  上層部が招聘した魔導師、五稜ナオとその従者。上條敬介を班長とした第二戦闘班の活躍もあり、辛くも壊滅的な被害を被る事も無く戦闘は終結した。  第五戦闘班六名全員。封印処置室に配属されていた魔導師三名。第四戦闘班一名。事務員二名。魔導技研研究員一名。魔導技研特別協力員一名。計十四名が犠牲に、其の他約二十名の重軽傷者を出した事態となり、堕天使の翅及び他の侵略者に備え、防衛体制の強化、施設全体の改修を十日以内に行う物とする。  カラー写真付きのプリント十三枚相当の概要説明に目を通した後、キルケはその一枚下のプリントに記載された名簿を覗く。 「あいつ、やっぱり死んじゃったのか……」  十四名の犠牲者達の一覧に、マダの核の破壊に貢献してくれた“マルバス”の名前がある。 あの時の通信を訊く限り、彼の生存も絶望的に思えていたが。 「エフハリスト(有り難う)。やな奴だったけど、あんたの事は忘れないよ」  悔しさからそっと唇を噛み締め、キルケはファイルを閉じ口元に手を当てて、マルバスへ追悼の意を表する。 「ん?」  薄く目を開き、キルケはファイルの下に一枚の封筒が置かれていた事に気が付き、それを手に取った。 裏には英文でサブナックと記名されてあり、表には黒く太字のマジックペンらしき物で「催促状」と、大きく漢字で書かれていた。 どうやら治療費の請求書が送付されているらしい。 「……催促状って、まだ半日と経ってないでしょうが」  ぶつくさと文句を言いながら、キルケは封筒を切り中に収まっていた用紙を取り出してそれを開く。 「はい……っ?」  内容に目を通したキルケの表情が瞬く間に凍り付いていく。 彼女に宛てた治療の請求額は“七万円”と記されていた。 話が違う。あの時は“五万円”と発言していたのだが、明らかに金額が加算されている。  
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