第四章 襲い来る堕天使の翅

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  ほんの数秒間の沈黙の後、ルシフェルは最下獄の空間を揺るがし、再び地を這う異質な声を発した。 「──偉大にして尊厳たる王より貴殿等に命ずる。再び地上世界の偵察、秘宝の調査へ戻れ。地上に残る人間への裁きを下す為、最下獄を破る手段を解き明かしてみせよ」 「畏まりました。我が崇敬なる王の為、必ずや御期待に応え、多大なる実績を御覧に入れましょう」  胸に右手を当て、艶やかに恍惚とした表情を浮かべ、誓いを立てるパイモンの隣で、東藤も恭しく一礼をし静かに彼の命に応える。 「仰せのままに……」  ルシフェルに見せた誓いの後。二人は最下獄から退出し、巨大な地獄門は音も無く閉まっていった。 群青色の岩盤で作られた螺旋階段を上がり、東藤はパイモンに声を掛けた。 「ソロモンの鍵を奉納し、一区切りは付いた。次はどの様な手を打ってみるかね」 「さて、ね。今は人間達の観察に戻るとしよう。彼等が急に様子を変える様なら……また私達も動き出すさ」  自身のペースを崩さないパイモンに微笑み掛け、東藤はもう一つ彼に質問を出してみる。 「葛原怜司を撃破した……あの冥府の調停者は如何にする? 我々にとって最大の障害と成り得る可能性もあるが」  “アモンの隻腕”の適格者である怜司を倒した敵へ警戒し、東藤は階段を上がるパイモンの背中を凝視し続けた。 彼も相手の実力を程好く理解しているのか、軽く笑い声を漏らしつつ、後ろを歩く東藤に向けて声を掛ける。 「大丈夫さ。葛原君との戦いで彼女の持つ最大の弱点も把握している。また争う事となれば、次なる刺客を彼女へ差し向けるさ」  言葉の最後にパイモンは後ろを振り向き、にやついた笑顔を東藤に見せ余裕の態度を示す。 彼の顔を無表情のまま眺めて、東藤もぽつりと言葉を漏らした。 「堕天使の翅(フォーリン・エンジェルズ・フェザー)の同志達も世界中で活動している。彼等を一度に徴集すれば、あの街のパワーバランスも我々の方に傾く事だろうな」  東藤も含み笑いを浮かべて、手にした金色のカンテラを前面へ翳し(かざし)、地獄の最下層から会談場へ向けて、緩やかに足を進めた。 …◇…◇…◆…  午後十一時十分。東京都港区麻布永坂町。五稜邸。 数時間前に魔導対策機関との会議を終えて帰宅し、ナオは自身の机と向き合い、新たに出現した敵組織……≪堕天使の翅≫について知り得た情報を、半紙に書き写している。  
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