その1.僕を選んでくれてありがとう。

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「起こしてくれてあんがと、梨花」 「別にいいけどさ。なんか夢でも見てたの?」 梨花は鞄を持ち直して緩く首を傾げながらアタシを見る。 開け放した窓から風が入り込み、ふわりと彼女の緩く巻いたキャラメルブラウンの髪を揺らした。 「なんか、最初はえらく幸せそうな表情だったのにあとから泣きそうな顔になったり…百面相?」 ぱっちりとした梨花の目が、彼女が笑ったことにより優しく細められた。 同性ですら見惚れそうになるのだから、男子からしてみたら悩殺もんだろう。 改めて友人である彼女の可愛らしさを実感しながらも、梨花の言った言葉に先程の夢を思い出した。 頭を過るのは、懐かしい蜂蜜色のふさふさの毛並み。 「……昔ね、飼ってた犬の夢見た」 ポツリと口にした言葉に、梨花はああと納得したような表情を浮かべ頷いた。 「前に写真で見せてもらった犬?なんだっけ…えーっと……」 「テツ」 「ああ!そうテツくんテツくん!」 名前を思い出した梨花は手を叩き嬉しそうに笑う。 アタシもそうだが、梨花も相当な犬好きだ。特に大型犬が好きで自宅でも黒いラブラドールを飼っている。 アタシが以前飼っていた犬はテツというゴールデンレトリバーの男の子だった。 アタシが生まれた時から傍にいて、兄弟同然に育ったテツ。 蜂蜜色のふわふわとした毛並みと、愛らしいまんまるい瞳、優しくて人懐こい性格で家族のみならず色んな人から愛されていた。 けれどアタシが小学生のとき、テツは交通事故で死んでしまった。
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