始章

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「私達は『不幸者』ってやつなのかな?」 「『不幸』…ね。とは言え、それに対する比較対象を経験しないことには、何処まで行っても過言にしかならない。もしかしたら、僕達はとても幸福なのかもしれないし、所詮、幸か不幸かなんて、観測する側の意識の問題だろう?」 各々の思想の違いで、境遇の受取り方は容易に反転する。貴方にとっての不都合が私にとっての幸福――つまりは、理解度の差異であり理解方向の相違によって形成される、矮小なようで膨大な歪みのような物。 「…それで要するに、どうなの?」 「少なくとも、幸せじゃない。それを言ってしまえば幸せ者に失礼だ。でも、不幸って訳でも無いさ」 「曖昧だね」 横目で僕を流し見て、君は苦笑する。 「いいだろ、はっきりさせなくても。そっちの方が楽だし……それに」 「……それに?」 「ま、今こうしていることまで不幸なんて考えるの、何か癪だし」 「……素直じゃないね。同感だけどさ」 今度は快活な笑顔を――いつもと何ら変わらない、包み込むような笑顔を、君は僕に向けてくれた。 君はいつも。 自分がどんな目に会おうと、どんな目に会わされようと――僕にはそうやって、笑うんだね。 僕はもう、何も言わない。
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