第1章 奇劇の黒い影

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しかしながら。 「…………」 現状からの脱出行為は逆に自体の悪化を促す事だと、僕はその時、与えられた僅かな空白の中で悟った。ツギハギだらけの知識の上澄みよりは幾分信用に足る、人間的な本能から。 第一、特に難局と言う訳ではないし、取り返しの付かない不正解が存在したとしても、被るべき被害が即断で僕を襲う事はないだろう。自分が何かなど、本来自分自身には分かり様もない――正解の無いパズルに等しいものなのだから。 「……普通の、高校生ですけど」 だから、応えてやった。 万が一、応答から何かを望んでしていたならば、余りにも肩透かしだっただろう。深い言葉に軽く応じ、重い期待を軽く潰す――それが、お世辞にも良好な性格とは言えない僕の何処までも後ろ向きな反撃。 とか。 とまあ自身の体裁を擁護してみるけれど、結局の所は曲解する必要など無くて、ただ単に自分の現在の身分及び職業を答えただけなのだけれど――正直、これで怒られても困る。変に捻れてない分、僕にしては非常に素直に応じたはずだ。 天界でも魔界でもなく、過ごす世界は現代の日本であり、残念ながら僕は今、何より平和と日常を望む一般的な男子高校生として今を生きているのだから。
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