第1章 奇劇の黒い影

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「絶対的な平和主義者、 或は嘘吐きってとこかな。その点、君自身はどうだい?」 前言撤回……自分で自分自身の事なんて分かりっこない。何度も繰り返してる。こんなことなら無駄に包括精神を表出させるべきじゃなかった。出過ぎた行動と判断には、いつだって負荷が付き纏うことぐらい理解していたはずなのに。 「………(早くも窮地な訳ですよ)」 そんな後悔も、言うなれば日常の一部と諦めよう。ていうか、そもそも、この問いに真面目に答える義理は僕には発生していないのだ。虚言で返しても良し、真実に虚実を混入させるも良し、選択肢は幾らでも掌の中にある。まあ、外面的な体から思考はしてみるのだけれど。 「…ふふ、どうだろう、君はあまりにも、普通過ぎると思えないかい?」 「…………」 成程今度は僕が嘘つきだと言いたいのか。 おーけい、了承した。 確かに僕は嘘つきだ。 自分を偽らない人間こそが、周囲に疑いを振り撒く象徴――『偽らない』と偽っている時点で誰よりも詐欺師、何より偽善の坩堝。 その型番で人格形成しているんだ、遇えて絶望的な事実に身を斬られに行くのは、馬鹿な馬鹿馬鹿か破滅型のマゾ以外に考えられない。楽な立ち回りを選んで生きてる、そんなことは分かり切ってる。言われるまでもなく、遥か昔から。 だから、分かる。 分かるだろうが、あんたも。
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