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とある神界
この世界は人間の住む世界と隔離された―簡潔に言えば別次元にある世界である。
名前の通り、この世界では人間に「神」と呼ばれる存在が至極当たり前のように生活している。
とは言っても、人間の想像するような、空いっぱいに光が煌めいていたり、花が咲き乱れていたりというような、いわゆる『楽園』のイメージを想像すると、それはかなり間違っているのかもしれない。
どちらかと言えばその光景は日本の東京を思い起こさせるだろう。
ビルの変わりに宮殿が建ち並び、神々=純白の聖衣という方程式は今や成り立たなくなっており、それぞれの個性を象徴するかのような風体をしている。
聖戦なるものは、今では黒歴史となりつつあり、平和になった神界では、仕事という仕事は無い、と言っても過言ではなかった。
元々平和の象徴のようであった神界が本来の姿を取り戻した・・・かのように見えるのだが、あまりにも平和ボケしすぎている現状が今問題となっている事はとりあえず置いておこう。
やる事がなくなった分、人間界の影響を受け、普及したものが娯楽の文化であり、それが大きく発展したのはつい最近のことだ。
そんな神界の中心に位置する宮殿、ヴァルハラ
その一室では、静まりかえった部屋に響く、キーボードを叩く音が今日もまた聞こえていた。
ベッドと机とパソコンしかない、この無骨でありながらもなぜか生活感を感じさせない部屋。
必死でモニターを見つめ、キーボードを叩いている男は目には隅を携え、銀色の絹のような長髪は寝癖でボサボサになっている。
その姿は20を目の前にした好青年なのだが、もちろん年齢という概念は神界にはなく、見た目と年齢を比較するのはあまり意味の無いことであった。
服装は白いVネックのシャツに、色褪せた―いわゆるケミカルジーンズをはき、その姿にはかつて聖戦を指揮取った王の威厳はなく、だれがみてもただの浪人生、もっと言うならば働く事に意義を見出ださない、いわばニートにしか見えない格好をしていた。
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