序説―オフ会やるYO―

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画面の中では自分の分身となるキャラクターが、他のプレイヤーと共に翼の生えた巨大なドラゴンと戦っている。 猛攻を交わしながら仲間の一人がとどめを指すと、チャットログに「乙」という文字が並んだ。 次いで男も他のプレイヤーに対して「乙」の文字を打つ。 ちなみに「乙」とはネット用語で「おつかれ」の意味であり、なにか大きな事を達成した時はもちろん、「なに頑張っちゃってんの?お疲れ(笑)」など、相手をバカにした使い方も出来るという利便性を兼ねている言葉である。 もちろん今回の場合は素直に互いを称えあっているので前者の意味である。 巨大なドラゴンを倒し、画面の中の戦士たちには一時の休息がもたらされた。 チャットログでは次の討伐の事や、ゲーム内の情報交換が次々と書き込まれ流れていく。 するとこのバトルグループのリーダーである最強の大剣士 ゛聖騎士@絶対王者゛からこんな発言が飛び出した。 『なぁオf会やらね?』 説明しよう オフ会とはネット用語であり、ゲームの世界から飛び出してプレイヤー同士が直接会いましょうというものだ。 ネットの関係はネットだけ、という認識が強い人も多いため、今までは滅多にこんな話が出ることはなかった。 だが、チームリーダーである彼の提案は見えない強制力を持っており、そうそう流せるものではないのも事実だった。 『どうかな?』 やはり少し抵抗があるプレイヤーもいるのか、少しの間チャットログの流れが止まったが、一息つくと 『オレはおk』 『私も』 『場所どこ』 『行くぜメーン』 と、いうような文字がチャットログにどんどん流れていき、最終的には全員が賛成の方向で話が進んでいった。 一人を除いて。 『オーちゃんどう?』 『オー恋よ』 オーと呼ばれている男は迷っていた。 なぜなら自分は神であり、神界に住んでいるからである。 だが今やっているオンラインゲームは人間界のものであり、まさかオフ会をやろうなんて提案が出る事を想定していなかった。 オフ会に行くこと、それはつまり自分の領域から飛び出して人間界に降りるということだから。 迷っている間にもチャットログは自分を促してくれるコメントがどんどん流れていく。 今のご時世自分を必要としてくれている人がいる。 多少解釈が間違っているが、今の彼にはどちらでも同じ、些細なことだった。
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