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覚悟を決め、カタカタと男はキーボードを叩いた。
『我も行くよ 場所は?』
すると『オーしゃまキター』という言葉の後に続き、参加者の紹介、日時と場所、それと目印に持ってくる物が流れた。
「ふう・・・」
キーボードから手を離し、その場で静かにポツリとため息をついた。
キーボードの音がなくなった分、殺風景な部屋はより一層その静けさに拍車をかけていた。
大きな窓の外からは、落ちない日差しが容赦なく部屋の隅々を照らし出している。
それは見方によっては、光が―
人間の月日であらわすと約3年ほど家の外に出てない男を、屋外に追いやらんとするように見えるかもしれない。
オフ会の話で気が動転したのか、久しくパソコンの電源を切ろうと、とりあえず
「落ちるノシ」
と、他のプレイヤーにゲームを一旦やめる事を告げ、パソコンの電源を落とした。
何をするでもなく、欠伸をしながらぼんやりとしていると、部屋に小さく、だがハッキリと外からドアをノックする音の後に、人間の単位で10代後半くらいの凛とした透き通る女の声が聞こえてきた。
「ご主人様、食事の用意が整いました」
首をゴキゴキと鳴らすと、気だるそうにドアの向こう側の声の主に返事をする。
「うむ、はいっていいぞ」
「失礼します」
ドアの開く音と共に入ってきたのは、綺麗な黒髪に黒のフリル付きのワンピースを纏った、いかにも、といったメイドの風貌をした少女だった。そのカワイイというよりは、クールビューティーな顔や、四肢の肌の白さが黒のコスチュームをさらに際立たせている。
見た目は人間の少女となんら変わらないのだが、背中に付いている吸い込まれるような漆黒の小さな翼が、ただの人間ではないことを示している。
彼女は男の使い魔である『鴉』であり、メイドという役割を担っていた。
ヘッドドレスの位置を手で撫でるように確認すると、スカートの裾を少し持ち上げ一礼をした。
「今日のメニューは・・・」
と、食事の内容を告げようとするメイドの前に手を突きだし、話そうとする彼女を制した。
「ムニン、少し我の話を聞くがよい。早速で悪いのだが・・・我はな、人間界に降りようと考えている」
ムニンと呼ばれたその少女は、ポーカーフェイスのその口元を少し歪ませた。
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