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 このあたりの人達は種蒔き桜と呼ぶ。昔々、田に種を蒔くための目安だったのだと小さい頃祖母に教わった。  そんな説明書きの載ったポールを横目に、石段に足をかける。  所々かけて苔むした石段を登るのは、先にある社へと参拝するため。  上がらずとも桜は十分に眺められるのだが、それは鳥居の内側にある。  鳥居は玄関だ。社は神様の家。玄関に入り込んでおいて挨拶もなしなど失礼極まりない話である。  そんなわけで、ハアハア息を切らせて主へと挨拶に階段を登っているのだ。  登りきると広い広場に中門があり、奥に社がある。中門を抜けると右手に小さな鐘があり、その後ろには崩れかけた地蔵様が並んでいた。  右手には家主がいなくなったために納められた家神様…、お狐様が小さい山になっている。  カランと、たいして入っていないだろう賽銭箱に小銭を投げ、日焼けして色褪せた鈴を鳴らした。  ゆっくりと二礼二拍手、そして一礼。  わずかに聞こえる鳥の囀り以外は、まるで切り取られたかのように静まり返っていた。  普段ほとんど人のこない神社は少し怖い雰囲気がある。  挨拶を済ませた私はそそくさとその場を後にした。 ・
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