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場違いなほど、美しい男。
「……………っっっ!!!!」
息を吐き出さず吸い込んだせいで悲鳴がでなかった。
ただヒュッと短く咽から音が漏れただけ。
男は視線を私と合わせていた。顔の高さは同じ。
違うのは立っている位置。
重力などくそくらえとでも言うように、天高く足を伸ばしている。
着ている着物も、髪も、それに従っていた。
「あ…あぁ…」
「…お前、もしや私が見えるのか」
能面のような表情のまま、それでも僅かに目を丸くして意外そうに言うが、こちらはそれどころではなかった。
(浮いてる透けてる浮いてる透けてる!!!)
硬直したままパニックに陥っている私の前に、ひらりと体を反転させた男が降り立つ。
「悪いがおそらくソレは私の物だ。返してもらおう」
透き通る指がせまってくる。
勾玉を握りしめたまま固まっている拳に触れるか触れないかというところで、混乱していた神経がとうとう爆発した。
「な、のっ……おっ!」
「なのお?」
「おばけぇーーー!!!!」
上がった悲鳴は心底情けない物だった。
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