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六章
詩織はおばたちから遺産を詮索されるのにうんざりしてしばらく海外をきままな旅に出た。
カナダからアメリカへと南下していた。
母のもとを訪れるつもりでいたが勇気が出なかったから。
1ヶ月放蕩した後に、ペンシルベニアの住所についた。
緑の多い敷地に建つアメリカン住宅に空間のゆとりを感じた。
中からは初老の紳士が出迎えてくれたが、すぐにわかったようだ。
<シオリ?おおよく来てくれた。グランマアヤにそっくりだ>
<よく言われるわ>流暢な英語で会話は進む。
騒ぎを聞きつけ二階からおりてきた多感な頃の少女がやってきた。
写真に写っていた少女だ<娘のセレンだ、君の妹だよ>
<ええ…>やはり戸惑いは隠せない。
このとき、セレンは、握手するように父親に促され近づいたが彼女の手は詩織の頬を叩いた。
一瞬のことで何だったのかわからないでいた。
<セレ!>
<何しにきたのよ。ママは渡さない。私だけのママなんだから。今さら来ても遅いのよ>
<シオリ、大丈夫かい。すまない>
この騒ぎにも母は姿をみせない。なんとなく不安の闇が広がってきた。
<何度も君が小さいうちに引き取ろうとしたんだが>祖母から聞いてます。絶対に許さなかったって>
<君を忘れたわけじゃないんだよ>
<わかってます>
<今さら何しにきたのよ。ママはしーちゃんっていつも泣いていたのよ>
<セレ、シオリは子供だったんだ。シオリのせいじゃない>
<私はあなたがうらやましいわ、セレン、こうしてパパとママに囲まれて愛情いっばいもらって。私には母しかいなかったのに、私はずっと母が迎えに来てくれるのを待っていたのよ>
<シオリ…>
<ママは奥で寝てるわ。ガンでもうどれくらい生きられるかわからないのに、あなたが来るからって家でモルヒネも打たないで待ち続けていたのよ>
聞くが早いか示された部屋のドアを開けた。
陽がたっぷりと差し込みテラス越しの部屋に、ベッドに寝ている女性がいた。
あんなに若く華やかな母だったのに、今は白髪まじりに目元も頬もこけていた。
母は白血病で今回の再発で娘、セレンの骨髄を移植した。
だが拒絶反応により移植は失敗に終わってしまった。
<あんたがったどこさ、肥後さ、肥後どこさ…
日本で育った子供たちなら一度は聞いたことがあるわらべ唄を詩織は口にした。
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