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2章
祖母が波乱な人生に幕を下ろした。
くも膜下出血であっけなく逝ってしまった。
子供たちが集まったが、母の姿はなかった。
当然だ、誰も母の消息をしらない。
唯一、知っていたかもしれない祖母は誰にも教えずに永遠に黙ってしまった。
<おばあちゃん、詩織ちゃんを一人前にして安心したのよね>
<そうさ、詩織ちゃん、お母さんから連絡はないのかい>
<ありません>
<もうどれだけになるかなあ。子供をおいて、消息不明なんてなあ>
戸籍からも母の居場所はわからない。
詩織は祖母の養子として母の戸籍からは除籍されているため、知りようがない。
<昔から変わってたからなあ。ほら姉さんとは父親が違うだろ。なんてったか、日系二世の米兵でさ>
<にいさん、よしなさいよ>
兄のすべらした口を妹のおばが慌てて止めた。
<詩織ちゃん、気にしないでいいのよ>
無論、そんなことは気に病んでなどいない。
詩織の記憶に祖父の記憶はない。
どんなにわらべ唄を歌おうと、よい子にしていようと母は迎えにはこない来るはずがないのだ。子供を置き去りにして、男のもとに追いかけていった母なのだから。
子供時代はよくいじめられたものだ。
そのたびに祖母は、わらべ唄を歌いながら、なだめてくれた。
高校を卒業して、東京の大学へ通うために家を出るとき、祖母はすべてを教えてくれた。
詩織にとっては祖母のもとが帰る場所だった。
だがすでに帰る場所すら失ってしまった。
祖母の邸宅は、おじたちにより売却され、財産分与された。
だが詩織には一報あっただけでかやの外となった詩織には何も残されなかった。
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