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3章
私は手芸工房で、毎日、小さな針と布と格闘し、小さなマスコットから、板に絵巻をパッチワークしたりと様々なものを作り出していく。
この達成感が好きでこの道を選んだ。
いつかは自分のショーウィンドウを開くのが夢だそんな私の携帯に国際電話が入ってきた。
アメリカからだった。
<しーちゃん?>
唐突に幼いころの愛称を呼ぶ声がきこえた。
聞き間違えるはずがない。十年以上、待ち続けた母の声だった。
だけどとくに感情が湧いてくることはない。
母を待ち続けたのは、もう遠い昔のことなのだ。<お母さんよ、わかる>
<おばあちゃん、亡くなったわ。去年>
<そう。しーちゃん、会いたいわ。会いにきて>
なんて身勝手なのだろうたった一人の娘より幸せを選んだのに。
アメリカで家庭を持って幸せにしていると一度だけ祖母が口にした。
私に母を忘れるようにとの暗示だったのに。
なんで今さら。
<無理よ、仕事が忙しいから>
<そうなの。でも一度でいいから会いたいわ>
私は無言で電話を切ってしまった。
どう対応したらよいか、わからなかったから。
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