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4章
祖母の三回忌が滞りなく終了した。
私はアメリカの母のもとに法要の知らせを送っただがこの席に母の姿はない。
もしかして…の思いを持った私が無知だったのかと思い知らされたようだった。
この席に客人が来訪した応対に出たおばが慌てて戻ってきた。
詩織は最後の望みのように腰を浮かせたが、母ではなかった。
きちんとした身なりの男性だった。
<兄さん、弁護士の先生だってよ。もしかして母さんの遺書があるんじゃない>
<まだ遺産があるのか>
<あの家を詩織に相続させるってなってたら…>
<かっ関係ねえさ。もう売れちまったものは仕方ねえわな>
ぼそぼそと話してるつもりなのだろうが詩織の耳には、しっかり入ってきていた。
資産家の姉弟とは、こんなにもがめついものかと呆れた。
せめて天涯孤独となった自分にわずかの遺産なり言葉をかけても、よさそうなものを、高垣家の法要によそ者がきたような目で迷惑な空気は察知していた。
詩織は弁護士と入れ違いに席をあとにした。
その足で祖母の墓参りをすませた。
祖母は名倉の名で自分の墓地を作っていた。
だが予想通り、高垣の墓に入れられ、詩織が異議を唱えることなどできないのだから。
<もういいよね。おばあちゃん詩織は、この三回忌で、高垣家とのつきあいを絶つつもりでいたから。
祖母がいなくなってしまったらもう他人同然だから。
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